鍼灸院の「償還払い」とは?メリット・デメリットや適用されるケース

鍼灸院で行われるはり・きゅうの施術は、すべてが自費診療となるわけではありません。対象となる傷病や医師の同意など一定の要件を満たした場合、一部の施術には公的医療保険が適用され、療養費の支給対象となります。
そして、療養費を請求する方法の1つが「償還払い」です。償還払いでは、患者さんが鍼灸院の窓口で施術費の全額をいったん支払い、その後、自ら保険者へ申請して療養費の支給を受けます。鍼灸院側も、仕組みや適用されるケースを正しく理解しておくことが大切です。
そこで今回は、鍼灸院における償還払いの仕組みや受領委任払いとの違い、メリット・デメリット、適用される主なケースなどを詳しく紹介します。
1. 鍼灸院における「償還払い」とは?
鍼灸院における「償還払い」とは、公的医療保険の対象となるはり・きゅうの施術を受けた患者さんが施術費をいったん全額支払った後、自ら加入する健康保険の保険者へ申請し、療養費の支給を受ける方法です。
はり・きゅうの施術では、神経痛やリウマチ、頸腕症候群、五十肩、腰痛症、頸椎捻挫後遺症など、一定の要件を満たす場合に療養費の支給対象となります。
【(例)償還払いの流れ】
| 療養費の算定額が5,000円/患者さんの自己負担割合が3割の場合 | |
|---|---|
| (1) | まず患者さんが鍼灸院へ5,000円を支払う |
| (2) | 療養費支給申請書などの必要書類を保険者へ提出する |
| (3) | 審査を経て、原則として保険給付分にあたる金額の支給を受ける |
このように、償還払いでは患者さんが一時的に施術費の全額を負担するほか、療養費の申請手続きも原則として患者さん自身で行います。
そのため、鍼灸院側は患者さんに対して、支払いから療養費が支給されるまでの流れや必要な手続きについて、あらかじめ分かりやすく説明しておくことが大切です。
なお、償還払いはあくまで公的医療保険の療養費に関する支給方法です。健康保険の適用要件を満たさない自由診療(自費施術)については、償還払いによる療養費の支給対象にはなりません。
1-1. 償還払いと受領委任払いの違い
償還払いと比較される支給方法が「受領委任払い」です。
受領委任払いとは、患者さんが鍼灸院の窓口で自己負担分を支払い、残りの療養費については、患者さんから委任を受けた施術者が保険者へ申請して受け取る方法です。
例えば、療養費の算定額が5,000円、自己負担割合が3割であれば、患者さんが窓口で支払うのは原則1,500円となり、残りの3,500円は施術者が保険者へ請求します。
整骨院や鍼灸院の療養費制度の仕組みは本来、患者さんが費用の全額を支払った後に保険者へ申請し、支給を受ける償還払いが基本です。受領委任払いは、患者さんが窓口で全額を負担したり、自ら療養費を申請したりする負担を軽減するために設けられている取扱いとなります。
はり・きゅうでは、平成31年(2019年)1月1日から受領委任制度の取扱いが開始されました。 制度の導入には、患者さんの負担を軽減するとともに、療養費の請求手続きを統一し、請求の適正化・透明化を図る目的があります。
ただし、すべての鍼灸院や保険者で受領委任払いを利用できるわけではありません。
受領委任を取り扱うには施術者側で所定の手続きが必要であり、保険者側も受領委任制度に参加している必要があります。そのため、条件によっては現在も償還払いによる請求が必要です。
2. 鍼灸院にとっての償還払いのメリット・デメリット
鍼灸院が償還払いを選択するメリットは、受領委任払いのように、鍼灸院側が患者さんに代わって保険者へ療養費を請求する必要がないことです。療養費の支給申請は原則として患者さん自身で行うため、院側の請求事務にかかる負担を抑えやすくなります。
一方、患者さんにとっては負担が大きくなりやすい点がデメリットです。償還払いでは、患者さんが窓口で施術費の全額をいったん支払い、その後必要書類をそろえて保険者へ療養費の支給申請を行わなければなりません。受領委任払いと比べて、一時的な経済的負担だけでなく、手続き上の負担も増えることになります。
また、償還払いだからと言って、鍼灸院側の事務負担がすべてなくなるわけではありません。患者さんに償還払いの仕組みや申請方法を説明するほか、申請に必要な領収書や施術内容を証明する書類などを交付する必要があります。
こうした患者さん側の負担は、保険施術を利用する際のハードルにもなり得ます。そのため、保険施術を継続的に提供する鍼灸院では、患者さんの利便性や院の運営面などを考慮し、受領委任払いを取り扱うことも選択肢となります。
償還払いと受領委任払いにはそれぞれ異なる特徴があるため、院の運営方針や保険施術の提供状況を踏まえ、適切な方法を選択・運用することが大切です。
3. 鍼灸院で償還払いが適用される主なケース
鍼灸院における療養費の支給では、施術所や保険者の受領委任制度への参加状況などによって、償還払いが必要となる場合があります。
ここでは、鍼灸院で償還払いが適用される主なケースを3つ紹介します。
3-1. 受領委任制度の届け出をしていない
鍼灸院が受領委任払いを取り扱うためには、施術管理者が地方厚生(支)局へ所定の申し出を行い、受領委任の取扱いについて承諾を受ける必要があります。
受領委任制度の届け出をしていない鍼灸院は、患者さんから委任を受けて療養費を保険者へ請求・受領することができません。
そのため、公的医療保険の対象となる施術について療養費を請求する場合、原則として患者さんが施術費を全額支払い、自身で保険者へ申請する償還払いとなります。
なお、受領委任の取扱いを希望する場合は、施術所の所在地を管轄する地方厚生(支)局への手続きが必要です。
3-2. 保険者(健康保険組合等)が受領委任制度に加入していない
たとえ鍼灸院側が受領委任制度の届け出をしていても、患者さんが加入する保険者によっては受領委任払いを利用できない場合があります。
受領委任制度への参加状況は保険者によって異なり、制度に参加していない保険者に対しては受領委任による療養費の請求はできません。
この場合も、患者さんが施術費をいったん全額支払い、必要書類をそろえて加入先の保険者へ療養費を申請する償還払いなど、各保険者が定める方法で手続きを行います。鍼灸院側だけでなく、患者さんが加入する保険者の取扱いもあらかじめ確認しておくことが大切です。
3-3. その他(例外的に償還払いとなるケース)
鍼灸院と保険者の双方が受領委任制度に参加している場合でも、例外的に償還払いへ変更されるケースがあります。
代表的なのが、長期かつ頻回に施術を受けている患者さんについて、保険者が施術の必要性を個別に確認する必要があると判断した場合です。
一定の要件に該当した患者さんについて確認を行い、施術効果を超えた過度・頻回な施術が疑われる場合、保険者は施術管理者と患者さんへ通知したうえで償還払いに変更できます。
また、不正請求などが認められ、施術管理者等に対して受領委任の取扱いの中止措置が行われた場合も、それ以降は受領委任による請求ができなくなります。
このように、償還払いとなるかどうかは鍼灸院の選択だけで決まるものではありません。制度上の要件や保険者による判断、行政上の措置などによって償還払いとなる場合もあるため、それぞれの状況に応じた対応が必要です。
4. 鍼灸院が受領委任制度(受領委任払い)を適用するには?
前述の通り、鍼灸院が受領委任払いを取り扱うには、施術所の所在地を管轄する地方厚生(支)局へ必要な申し出を行い、受領委任の取扱いについて承諾を受ける必要があります。
申し出の際は、受領委任の取扱いに関する申出書などのほか、はり師・きゅう師の免許証の写しや施術所開設届の写しなど、所定の書類を提出します。また、施術管理者以外にはり・きゅうの施術を行う勤務施術者がいる場合は、その登録に関する手続きも必要です。
さらに、令和3年(2021年)1月1日以降、新たに受領委任を取り扱う施術管理者となる場合は、原則として1年以上の実務経験に加え、施術管理者研修を修了していることが要件とされています。
なお、一度承諾を受ければ、その後の手続きが一切不要になるわけではありません。施術所の名称や所在地、開設者、施術管理者、勤務施術者などに変更が生じた場合には、変更内容に応じた届出が必要です。施術所を廃止する場合や受領委任の取扱いを辞退する場合にも、所定の手続きを行わなければなりません。
必要な書類や手続きは状況によって異なるため、受領委任払いの導入・変更などを行う際は、管轄する地方厚生(支)局の最新の案内を確認し、適切に手続きを進めましょう。
まとめ
鍼灸院における償還払いは、患者さんが施術費をいったん全額支払い、その後、自身で保険者へ申請して療養費の支給を受ける方法です。受領委任制度の届け出をしていない場合や、患者さんが加入する保険者が受領委任制度に参加していない場合などに適用されます。
鍼灸院を運営するうえでは、償還払いと受領委任払いの違いや適用条件、必要な手続き、さらに患者さんへの対応方法を正しく理解しておくことが大切です。
「全国統合医療協会」では、整骨院や鍼灸院の運営に関するさまざまなサポートを行っています。療養費の請求や制度への対応をはじめ、院運営についてお困りのことがある方は、ぜひ全国統合医療協会へお気軽にご相談ください。
この記事の監修者

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