【整骨院向け】就業規則とは?必要なケース・記載項目・作成手順も

2025.08.06
【整骨院向け】就業規則とは?必要なケース・記載項目・作成手順も

整骨院を経営するにあたって重要なのは、施術技術や接客スキルだけではありません。安定経営に向けて複数人のスタッフを雇用する場合は、労務管理の整備や労務トラブルを防ぐための仕組みづくりが重要です。

労働環境を守るためのルールとして代表的なものが、「就業規則」です。就業規則は、労働条件や賃金、退職に関するルールを明文化したもので、一定の条件を満たす場合は法律上作成義務が発生します。

当記事では、整骨院における就業規則の基本から、必要な記載事項、作成手順まで分かりやすく解説します。

1. そもそも「就業規則」とは?

就業規則とは、 労働時間や休日、賃金をはじめとした労働条件や職場内のルールをまとめた社内規定のことを指します。就業規則で企業・事業所と労働者の双方に対する「働く上でのルール」を明文化することで、労務トラブルを未然に防ぐ役割を果たします。

また、就業規則はすべての企業・事業所に義務付けられているわけではありませんが、業種や企業規模を問わず作成することは可能です。ただし、常時10人以上の労働者を雇用している場合は、労働基準法により作成と届け出が義務化されています。整骨院も例外ではなく、適切な整備が求められます。

2. 整骨院で就業規則の作成が義務付けられるケース

労働基準法第89条では、 常時10人以上の労働者を使用する事業場に対し、就業規則の作成と所轄の労働基準監督署への届出が義務付けられています。 これは、たとえ個人経営の整骨院であっても例外ではありません。

ここで言う「常時10人以上」とは、正社員だけでなくパート・アルバイトや試用期間中の従業員も含まれます。また、「常時」は「継続的に10人以上の労働者を雇用している状態」を指すことにも注意が必要です。

したがって、日によって勤務人数に波があり、毎日必ず10人以上が働いているわけではないという場合でも、 平均して10人以上働いている場合は就業規則作成義務の対象となることも覚えておきましょう。

3. 整骨院の就業規則に記載すべき項目

整骨院に限らず、すべての企業が作成する就業規則には「何を記載すべきか」が法律で明確に定められています。就業規則に記載すべき項目には大きく「絶対的必要記載事項」「相対的必要記載事項」「任意的記載事項」の3つに分類されます。

●絶対的必要記載事項

労働時間や休日、賃金、退職・解雇に関する内容など、労働条件の根幹となる部分が該当します。必ず記載しなければならない項目であり、万が一未記載だった場合は労働基準法違反と判断される可能性があります。

●相対的必要記載事項

退職金や賞与、表彰制度などがある企業・事業者が記載すべき項目です。これらの制度を設けていない場合は記載不要ですが、会社として制度を定めているにもかかわらず記載しなかった場合は、労働基準監督署から是正指導を受けたり従業員とのトラブルに発展したりするおそれがあります。

●任意的記載事項

福利厚生や慶弔休暇、制服貸与といった独自ルールなどが該当します。法律上の定めは特にないものの、記載することで職場内ルールがより明確となります。

このように、就業規則では必要に応じて細かなルールを整備することで、労務トラブルの防止や従業員が安心して働ける環境づくりにつながります。ここからは、就業規則における各項目の具体的な内容を、分類ごとに詳しく解説します。

3-1. 【絶対的必要記載事項】「労働時間」に関する事項

就業規則において絶対的必要事項に分類される「労働時間」に関する事項では、主に下記の内容を明記します。

 ● 始業・終業の時刻

 ● 休憩時間の取り方

 ● 休日および休暇の設定 など

労働時間に関する情報は従業員にとって非常に重要なポイントとなるため、単に「1日8時間、週40時間勤務」「休憩1時間」と記載するだけでは不十分です。例として「午前10時始業・午後7時終業」「午後1時から1時間休憩」といったように、 具体的な時刻を示す必要があります。

詳細な記載によって、従業員全員が勤務時間や休憩時間を正確に理解できるようになり、トラブル防止にもつながるでしょう。

休日に関しては、「週1回付与する」とだけ記載しても法律上は問題ありません。しかし、「日曜日と定める」など具体的な曜日を示すほうが、現場での混乱を避けやすくなります。

なお、年次有給休暇や産前産後休業、育児休業などの法定休暇のほか、年末年始や夏季休暇といった 企業が独自に設ける任意休暇も含めて明確に記載しておきましょう。

3-2. 【絶対的必要記載事項】「賃金」に関する事項

就業規則の「賃金」に関する事項では、主に下記の内容を明記します。

 ● 賃金の決定方法

 ● 計算および支払い方法

 ● 賃金の締切日と支払日

 ● 昇給に関するルール など

賃金においても、「毎月末締め、翌月10日払い」「銀行振込にて支払いを行う」といった具体的な記載をすることで、従業員は自分の給与がいつどのように支払われるのかを正確に把握でき、結果としてお金にまつわるトラブルの発生リスクを大きく軽減させられます。

加えて、歩合制やインセンティブ制度を導入している場合は、その計算基準や条件も詳細に記載しておくことで、公平性を保ちやすくなるでしょう。

なお、ここでいう賃金は 「毎月定期的に支払われる給与」 を指します。ボーナスや賞与といった臨時で支給される賃金は「相対的必要記載事項」に分類されるため、本項目には含まれません。

3-3. 【絶対的必要記載事項】「退職・解雇」に関する事項

就業規則の「退職・解雇」に関する事項では、主に下記の内容を明記します。

 ● 退職の事由および手続き

 ● 解雇の事由 など

解雇は特に労使トラブルの原因となりやすいため、解雇の基準や手続きについて明確に規定することが重要です。

例えば、「懲戒解雇」と「普通解雇」がそれぞれどのようなケースに該当するかを具体的に示すほか、退職を申し出る際の通知期間(例:退職希望日の何日前までに申告が必要か)についても 客観的に判断できる内容にしておくと、従業員・経営者双方にとって安心 です。

これにより、円滑な退職・解雇手続きが実現し、不要なトラブルを防げるでしょう。

3-4. 【相対的必要記載事項】「退職金・賞与・表彰」に関する事項

退職金制度や賞与、表彰・ペナルティ制度を設けている整骨院は少なくありません。これらの制度に関するルールは、就業規則の「相対的必要記載事項」として明確に記載する必要があります。

 ● 退職金の適用対象となる労働者の範囲

 ● 退職金の決定方法、計算基準、支払い方法および時期

 ● 臨時の賃金や最低賃金額の取り扱い

 ● 表彰の種類と基準

 ● ペナルティの種類と基準 など

例えば、退職金制度がある場合は「勤続5年以上の職員に支給する」「金額は月給の〇ヶ月分」といった具体的な支給条件や計算方法を明確にしておくことが求められます。表彰制度やペナルティのルールについては、対象となる行為も簡潔に示すことで、公平性と透明性を保つことができます。

また、 相対的必要記載事項には慣例的に存在している制度も明記する必要があります。 例えば、「労働者が負担する食費や作業用品の扱い」「安全衛生対策」「職業訓練の方針」「災害補償や業務外の傷病扶助の内容」「事業場内の全労働者に適用されるルール」などが該当します。

3-5. 【任意的記載事項】「福利厚生・独自ルール」に関する事項

任意的記載事項には、「法的義務はないものの、企業・事業所が社会通念や公序良俗にもとづいて独自に定めたルール」を記載します。具体的な項目としては、下記が挙げられます。

 ● 企業理念

 ● 就業規則の解釈・適用範囲

 ● 応募や採用に関するルール

 ● 副業に関するルール

 ● 制服の貸与やクリーニング方法に関するルール など

これらの内容は記載が義務付けられているわけではありませんが、明確に示すことで従業員の理解が深まり、トラブル防止や信頼関係の構築につながるため、しっかりと明記することが大切です。

また、施術時に制服を着用する整骨院では、制服の貸与やクリーニングに関するルールを具体的に示すことが特に重要と言えます。加えて、SNSの使用に関する注意点や職場の独自事情に応じたルールも記載しておくことで職場運営の透明性がより高まり、 整骨院経営者と従業員の双方にとって働きやすい環境づくりが促進される でしょう。

4. 整骨院の就業規則の作成手順とポイント

整骨院で就業規則を作成する際は、以下の手順に沿って進めましょう。

STEP(1)労働者代表の選出・意見聴取
就業規則の作成時には、法律により従業員の意見を聞くことが求められており、経営者が一方的に内容を決定することはできません。まずは現場スタッフの中から「労働者代表」となる方を公平に選出し、その代表者から意見を聴取する必要があります。
STEP(2)就業規則の原案作成・カスタマイズ
原案作成の際は、ネット上で配布されている無料テンプレートを活用する方法もあります。しかし、テンプレートをそのまま流用するのではなく、院ごとの労働環境や実情に即して内容をカスタマイズすることが重要です。また、誰が読んでも理解できるように、分かりやすく簡潔な表現を心がけましょう。
STEP(3)労働基準監督署への届出
完成した就業規則は、労働者代表の意見書を添えて所轄の労働基準監督署へ届け出ます。この手続きを経て、就業規則は正式に効力をもつこととなります。

まとめ

複数のスタッフを抱える整骨院が安定した黒字経営を維持するためには、適切な就業規則の作成やそれによる労働環境の整備が、施術技術や接客スキルの向上と同じくらい重要です。働く環境が整うことでスタッフの定着率やモチベーションが向上し、結果として整骨院全体のサービス品質や経営基盤の安定につながるでしょう。

全国統合医療協会では、整骨院の就業規則作成をはじめ、労務管理や経営に関する幅広いご相談にも対応しております。整骨院の全般的な経営サポートを受けたい経営者・オーナーの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

この記事の監修者

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中村 崇男

昭和44年東京生まれ。昭和63年都内整骨院を勤務し、東京柔道整復専門学校を卒業後、平成23年一般社団法人全国統合医療協会を設立。鍼灸師・柔道整復師の社会的地位と健康医療福祉の更なる向上を目標に幅広い分野で活動中。
一般社団法人全国統合医療協会理事長
公益財団法人明徳会清水ヶ丘病院理事長