鍼灸院の開業に失敗する原因7つと各原因の対策方法

2025.05.28
鍼灸院の開業に失敗する原因7つと各原因の対策方法

近年、鍼灸院の数は大幅に増加しています。一方で鍼灸業界は競争が激化しており、廃業に追い込まれる鍼灸院も少なくありません。鍼灸院を開業するにあたって、廃業や失敗に不安を抱えている方もいることでしょう。

鍼灸院の経営を成功させるためには、開業に失敗する理由を理解した上で準備を進めることが大切です。

今回は、鍼灸院の廃業率と開業に失敗する原因について詳しく解説します。原因別に対策法も紹介するため、ぜひ参考にしてください。

1. 鍼灸院の廃業率

鍼灸院の開業数は年々増加している一方で、経営の難しさや競争の激化などによって開業から数年で廃業に至るケースも決して珍しくありません。

東京商工リサーチの調査結果によると、2014年におけるマッサージ業・接骨院等の倒産件数は39件でしたが、わずか4年(2018年)でおよそ2.4倍となる93件に達したことが分かっています。

2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
39件 40件 58件 68件 93件

出典:東京商工リサーチ「2018年「マッサージ業、接骨院等」の倒産状況は過去10年で最多93件に急増、5年連続で前年を上回る」

2014年から2018年にかけては毎年連続して前年度を上回っており、2018年の倒産件数は過去10年間(2008年~2018年)で最多となりました。2019年以降の有効なデータは存在しないものの、社会情勢の変化により経営難に陥っている経営者がさらに増加していると予測されます。

倒産したマッサージ業・接骨院等のほとんどは、小・零細規模です。倒産の原因は、販売不振による業績悪化が多くを占めています。

鍼灸施術を行う施設数の推移は、下記の通りです。

2016年 2018年 2020年 2022年
はり及びきゅうを行う施術所 28,299件 30,450件 32,103件 33,986件
あん摩、マッサージ及び指圧、はり並びにきゅうを行う施術所 37,780件 38,170件 38,309件 38,589件

出典:厚生労働省「3 就業あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師及び施術所」

鍼灸院の廃業率が増えている一方で、施設数は年々増加しています。鍼灸院が増えている背景には、健康志向の高まりによる需要の増加が影響しています。また、養成施設の増加によりはり師・きゅう師が増えたことも理由の1つです。

需要の増加自体は経営者にとってメリットですが、施術所数が需要を上回ることで競争激化となり、小・零細規模の鍼灸院は倒産リスクが高まります。

2. 鍼灸院の開業に失敗する7つの原因|それぞれの対策法も

鍼灸院の開業で失敗することには、必ず何らかの原因があります。開業後の経営を安定させるために、倒産につながる理由を知っておくことが大切です。

ここからは、鍼灸院の開業に失敗する原因、失敗を防ぐための対策法を解説します。

2-1. (1)適切な立地・店舗を選べていない

開業するエリア選びで失敗すると、集客率が低くなり売上を伸ばすことができなくなります。いくら宣伝広告に費用を使っても、需要が少ないエリアでは集客率を高めることができません。

鍼灸院の開業に適した立地・店舗の特徴は、次の通りです。

● 競合他院が少ない

● 地域の人口が多い

● 人通りが多く目立つ場所にある

● 公共機関を利用してアクセスしやすい

まずは市場調査を徹底し、集客が見込めるエリアを探しましょう。公的データを参考に人口統計や世帯数をチェックし、現地に足を運んで商圏調査を行うのがポイントです。自院の強みを明確にして顧客像を具体的にイメージしておくと、需要のあるエリアを選びやすくなります。

2-2. (2)十分な運転資金を用意できていない

鍼灸院の開業に失敗する原因の1つに、運転資金の不足が挙げられます。

鍼灸院の開業には、物件の取得費用や内装工事費、備品の購入費用や広告宣伝費などまとまったお金が必要です。開業までにかかる費用の他に、経営が軌道に乗るまでの運転資金も確保しておかなければなりません。

十分な運転資金を用意できていなかった場合、開業できたとしても数か月のうちに経営が厳しくなる場合があります。

鍼灸院の開業に必要な運転資金は、3~4か月分が目安です。1か月あたりの運転資金が100万円であれば、300万~400万円を用意しておくと安心です。

2-3. (3)施術スキル・技術力が不足している

鍼灸院の開業自体は、鍼灸師の資格があれば誰でもできます。しかし、お客さんが求める施術を提供できなければ、リピーターの確保ができず経営が悪化します。

施術スキルや技術力を高めるために、関連資格の取得も検討してみましょう。

鍼灸師に役立つ主な資格は、下記の通りです。

● 柔道整復師

● あん摩指圧マッサージ師

● アロマセラピー

● カイロプラクティック

● スポーツトレーナー

複数の資格を取得することで、提供できる施術が増えてお客さんのニーズに応えやすくなります。柔道整復師・あん摩指圧マッサージ師は鍼灸師と似ている部分も多いため、取得を目指しやすい資格と言えるでしょう。

また、接客や心理学など鍼灸院の経営に役立つセミナーに参加するのもおすすめです。

2-4. (4)施術以外のサービスを軽視している

鍼灸院の経営を成功させるには、施術以外のサービスの質を高めることも大切です。施術以外のサービスを軽視していると、顧客満足度を高めることができません。売上を伸ばすには、「来てよかった」「また利用しよう」と思ってもらえるような取り組みが重要です。

施術所の清掃や丁寧な接客など、サービス業としての視点を意識しましょう。匿名アンケートに回答してもらうことで、サービスの質を客観視できます。口コミサイトの内容をチェックして、お礼を述べたりマイナスな意見に対して改善の意思を伝えたりすることも効果的です。

2-5. (5)競合との差別化ができていない

競争が激化する中で安定した経営を続けるには、競合との差別化が必要不可欠です。競合との差別化がうまくできない鍼灸院は、開業に失敗する可能性が高くなります。

競合との差別化のポイントは、次の3つです。

● 顧客分析を徹底する

● ターゲット層に合ったメニューを設ける

● コンセプトを明確にする

差別化を図るには、まずターゲット層のニーズを詳細に把握することが最も大切です。「土日・祝日対応」「オーダーメイド施術」「美容鍼灸」など、自院の魅力をしっかりとアピールしましょう。

2-6. (6)効果的な集客戦略を立てられていない

効果的な集客戦略を立てられないことが原因で、廃業となるケースも少なくありません。

鍼灸院における集客のコツは、下記の通りです。

● 自院の強みをアピールして新規顧客を獲得する

● 新規顧客をリピーターにする

● 休眠顧客に再来院を促す

効果的な集客方法は、エリアやターゲット層によって異なります。広告を出稿したりホームページを制作したりするだけでは、新規顧客の獲得につながらない場合があります。

潜在顧客や休眠顧客へのアプローチには、SNSの活用も効果的です。ただし、ネットでの炎上がきっかけで廃業や経営難に至るケースもあるため、投稿内容や万が一炎上した場合の対応には十分注意しましょう。

2-7. (7)業務の仕組み化ができていない

業務負担が大きくなることも開業が失敗する原因の1つです。

鍼灸院の業務内容は、施術・顧客管理・集客・経理など多岐にわたります。業務の仕組み化ができていないと、業務に支障をきたしたりお客さんに迷惑をかけたりするおそれがあります。

業務を仕組み化する方法は、電子カルテアプリや予約システム、経理ソフトなどさまざまです。鍼灸院を開業する場合は、業務負担を軽減するためにも仕組み化の準備を事前に進めておきましょう。

まとめ

鍼灸院の廃業率は決して低くなく、特に開業直後の零細規模での失敗リスクが高いことが特徴です。継続的な経営には、集客や差別化の工夫が不可欠と言っても過言ではありません。

開業に失敗する原因は、運転資金を準備できていないことや施術スキルの不足、競合との差別化ができていないことなどが挙げられます。鍼灸院の開業を成功させるためにも、失敗の原因を参考に対策を講じておきましょう。

鍼灸院(整骨院)の経営全般のサポートを行っている全国統合医療協会では、開業支援や業務の仕組み化の相談にも対応しています。鍼灸院の開業・経営に不安を抱えている方は、ぜひ全国統合医療協会にご相談ください。

この記事の監修者

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中村 崇男

昭和44年東京生まれ。昭和63年都内整骨院を勤務し、東京柔道整復専門学校を卒業後、平成23年一般社団法人全国統合医療協会を設立。鍼灸師・柔道整復師の社会的地位と健康医療福祉の更なる向上を目標に幅広い分野で活動中。
一般社団法人全国統合医療協会理事長
公益財団法人明徳会清水ヶ丘病院理事長