接骨院(整骨院)における不正請求のケース例|不正を疑われない工夫も

2024.08.23
接骨院(整骨院)における不正請求のケース例|不正を疑われない工夫も

接骨院(整骨院)では受領委任払い制度を利用して、健康保険扱いで患者さんに施術を提供できます。健康保険扱いの施術は人気が高く、接骨院にとって重要な収入源です。

しかし、受領委任払い制度を利用した施術の提供時には、不正請求をしないように注意が必要です。不正請求を行うと行政処分などのリスクがあります。

今回は接骨院における不正請求とは何かから、不正請求の主な手口と国の対策、接骨院が不正請求を疑われないための工夫までを徹底解説します。

接骨院(整骨院)における不正請求とは?

接骨院(整骨院)における不正請求とは、受領委任払い制度を悪用して、患者さんに請求する療養費を本来よりも多額にする行為です。

そもそも受領委任払い制度とは、受領委任払いの協定を結んでいる接骨院において、骨折・脱臼(医師の同意が必要)と打撲、捻挫の施術を保険適用で提供できる制度です。受領委任払い制度で施術を提供した接骨院は、患者さんからは保険適用の療養費を受け取り、健康保険組合に療養費支給申請書を提出して残りの費用を請求します。

接骨院が不正請求を行うと、患者さんから受け取る療養費と健康保険組合から支払われる費用が多くなり、本来よりも売上を伸ばせるという仕組みです。接骨院が不正請求をする理由には、「保険適用の施術範囲が狭く、患者さんに利用してもらいにくい」「競合の増加により、患者さん離れの懸念がある」ことが挙げられます。

しかし、接骨院の不正請求は健康保険法に違反する行為です。不正請求がバレた場合は、受領委任払いの協定が中止されて、保険適用の施術を提供できなくなります。

また、業務停止の指示や免許取消などの行政処分が下されるリスクもあるため、注意しなければなりません。

接骨院の不正請求は、患者さんからの情報提供や、従業員の内部告発によって発覚することがほとんどです。接骨院によっては故意ではなく、事務処理のミスによって不正請求をするケースがあるものの、故意ではなくても処罰を受けるおそれがあります。

接骨院の経営に支障をきたさないためには、不正請求は必ず避けるべきです。

接骨院における不正請求の主な5つの手口

接骨院における不正請求にはさまざまなパターンがあります。不正請求を避けるためには、不正請求の手口を認識して、自院で起こさないように対策を考えることが大切です。

ここからは、接骨院における不正請求の主な5つの手口を挙げて、それぞれがなぜ不正となるのかを解説します。

(1)部位転がし

部位転がしとは、患者さんの施術箇所を次々と変えて通院を引き伸ばし、療養費の請求を継続するという行為です。

厚生労働省によると、部位転がしには下記の特徴があります。

・負傷部位が1部位、もしくは2部位である。
・短期間(3か月未満)のうちに、同一の患者さんが治療と負傷を繰り返している。
・結果、患者さんの受診期間が長期にわたっている。

(出典:厚生労働省「柔道整復の施術に係る療養費関係」/https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000134996.pdf

部位転がしが不正となる理由は、不必要な通院の引き伸ばしによって療養費が発生し続けて、患者さんと健康保険の運営主体に損害を与えるためです。

また、部位転がしは国が定めた不正請求対策をかいくぐる手口として警戒されています。故意ではなくても部位転がしに似た施術提供となる可能性があるため注意してください。

(2)施術箇所の偽造

施術箇所の偽造は、実際に施術を行った部位とは別の部位を施術したことにするという行為です。例としては、患者さんに肩の施術を行って、レセプトには腰の施術として記載して請求するケースが挙げられます。

また、実際に行った施術費用に加えて、施術を行っていない部位の施術費用まで請求するというケースも存在します。

施術箇所の偽造は、保険適用外の施術を保険適用にする場合などに行われることが多い不正請求です。施術箇所の偽造は、本来の療養費よりも多額の請求をする行為であるため、不正と見なされます。

(3)施術部位の水増し(過剰施術)

施術部位の水増し(過剰施術)は、本来の施術部位に加えて、施術が不要な部位にも施術を行って療養費を多く請求する行為です。

たとえば肩の打撲で来院した患者さんに対して、首や背中にも施術を行って、3部位を保険適用で請求する行為が施術部位の水増しに該当します。

施術部位の水増しは、患者さんに対して療養費を余計に請求する行為であり、不正となります。

(4)保険適用を目的とした受傷理由の改ざん

保険適用を目的とした受傷理由の改ざんは、本来は保険適用ができない施術について、保険適用ができるように受傷理由を改ざんするという行為です。

たとえば肩こりに悩んでいる患者さんに対し、「痛みの原因が肩の打撲である」というように理由を偽って施術を提供する行為が受傷理由の改ざんに該当します。

受領委任払い制度で保険適用が認められるのは、骨折・脱臼・打撲・捻挫といった外傷性でかつ急性のケガのみです。保険適用を目的とした受傷理由の改ざんは、受領委任払い制度の悪用となります。

(5)柔道整復師が担当していない施術に対する療養費の請求

接骨院や整骨院の受領委任払い制度では、柔道整復師が担当した施術にのみ保険適用での療養費請求が認められています。柔道整復師が担当していない施術に対する療養費の請求は、れっきとした不正行為です。

柔道整復師の資格を取得していない整体師や鍼灸師、アルバイトの学生などが施術を行うことがある接骨院は、療養費の請求で間違いがないかを注意しましょう。

接骨院における不正請求の抑止を目的に実施されている国の施策

接骨院の不正請求が横行していることにより、国はさまざまな不正請求対策を導入しています。

特に下記の3つが、国が実施している代表的な施策です。

●長期施術における療養費の減額

1部位あたりの施術期間が5か月を超えた場合、超えた月の施術料金が80%まで減額されます。長期施術によって療養費が増え続けないようにするための対策です。

また、打撲・捻挫の施術期間が3か月を超えた場合は、療養費支給申請書に「長期施術継続理由書」の添付が必要です。

●多部位請求時における給付率の低減

複数の部位で療養費請求が発生した場合に、給付率の低減をする施策です。

具体的には、3部位目の施術料金が60%に低減します。さらに、4部位目以降の施術料金は3部位目に包括されて、分けて請求できなくなる仕組みです。

多部位請求時における給付率の低減により、施術部位数を不必要に増やす不正請求を抑止しています。

●受領委任払いの取り扱いにおける条件の厳格化

2018年4月より、柔道整復師の受領委任払いの条件が厳格化されています。

従来は柔道整復師の資格を取得していれば、受領委任払い制度を利用して保険施術が行えました。しかし2018年4月以降は、一定期間の実務経験と施術管理者研修の受講が必須条件となっています。

また、受領委任払いの届け出をする際には、届出用書類に「実務経験証明書の写し」「施術管理者研修修了証の写し」の添付が必要です。

不正請求を疑われないためには?

接骨院の不正請求が横行していたこともあり、近年は接骨院の療養費請求は審査が非常にシビアになっています。適切な施術を行ったにもかかわらず、不正請求を疑われる可能性もゼロではありません。

不正請求を疑われないためには、レセプトの書き方がカギとなります。

レセプトを作成するときは、下記のポイントをおさえておきましょう。

・レセプトとカルテの内容に齟齬がないようにする。
・負傷に至った経緯や、部位ごとの負傷の発生機序を書く。
・施術部位が3部位以上になる場合は、負傷原因を書く。
・施術が長期化する場合は、レセプトの摘要欄に長期施術継続理由を記載する。

レセプトには事実をきちんと書くことで、不正請求を疑われる可能性を低減できます。

まとめ

接骨院(整骨院)が受領委任払い制度を悪用して療養費を増やす行為は、不正請求です。

不正請求が発覚した場合は保険適用の施術が提供できなくなり、業務停止や免許取消などの処罰を受けるリスクがあります。不正請求の疑いを持たれないためにはレセプトをきちんと書くことが大切です。

全国統合医療協会では、療養費請求代行サービスやレセコン導入支援を提供しております。レセプト作成の労力をなるべく減らしたいという接骨院経営者は、ぜひ一度全国統合医療協会にお問い合わせください。

この記事の監修者

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中村 崇男

昭和44年東京生まれ。昭和63年都内整骨院を勤務し、東京柔道整復専門学校を卒業後、平成23年一般社団法人全国統合医療協会を設立。鍼灸師・柔道整復師の社会的地位と健康医療福祉の更なる向上を目標に幅広い分野で活動中。
一般社団法人全国統合医療協会理事長
公益財団法人明徳会清水ヶ丘病院理事長